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最高裁判所第二小法廷 昭和27年(あ)4345号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人三輪寿壮、同加藤真の上告趣意第一点は憲法違反をいうも、所論は原審において主張せず、原判決の判断を経ていない事項を主張するものであって適法な上告理由に当らないのみならず、本件犯行時に適用のあった旧酒税法六〇条一項は「免許ヲ受ケズシテ酒類、酒母又ハ醪ヲ製造シタル者ハ五年以下ノ懲役又ハ五十万円以下ノ罰金ニ処ス」と定め、同法三条は「酒類ヲ分チテ、清酒、合成清酒、濁酒、白酒、味淋、焼酎、麦酒、果実酒及雑酒トス」と定めている。従って免許を受けないで合成清酒や焼酎を製造すれば六〇条一項の罰則が適用されるのである。そして同法一四条は「酒類ヲ製造セントスル者ハ製造スベキ酒類ノ各種類ニ付製造場一個所毎ニ政府ノ免許ヲ受クベシ」と規定しているから酒類を製造しようとする者は製造すべき酒類の各種類につき政府の免許を受けなければならないのであるから、犯罪としての無免許酒類製造行為は原則として製造にかかる酒の種類毎に成立すると解すべきである。本件において第一審判決の確定した事実によると、被告人は政府の免許を受けないで第一、昭和二六年二月五日頃新潟県新発田市字定役町の被告人が以前住居した居宅において米、米糀及水を原料として仕込み醗酵させた醪を蒸溜して酒精分二〇度以上を含有する焼酎約六斗を製造し、第二、昭和二六年二月一二日頃前記場所において前記製造に係る焼酎の内三斗四升にグリセリン琥珀酸木香油等を添加して酒精分約一五度以上を含有する合成清酒約三斗四升を製造したものであるというのであって、第二の合成清酒の原料となった焼酎が第一の焼酎の一部であることは明らかであるが、被告人はそのいずれについても免許を受けていないのであり、被告人が合成清酒を製造する意思でその前提として先ず焼酎を造ったという事実は第一審判決の認定していないところであり、第一審判決が証拠に採用している被告人の検事に対する第二回供述調書によると「私が酒を造ろうと思ったのは、焼酎を作るつもりであって、焼酎が出来てから、気がかわってその一部を合成清酒に造ったのであります」とあって最初から合成清酒を作るつもりで焼酎を製造したものでないことが認められるのである。従って本件のような場合には焼酎製造行為の外に合成清酒製造行為が存するのであって二罪が成立するとみるのが相当である(昭和二七年(あ)第三九二六号昭和二九年二月二七日第二小法廷決定参照)。然らば本件焼酎無免許製造行為と合成清酒無免許製造行為との間には事実の同一性がなく各別個の行為が起訴処断の対象となっているのであるから、所論憲法違反の主張はその前提を欠き採用できない。同第二点は単なる量刑不当の主張であって刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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